2024年01月02日

旅するローマ教皇

 以前「ローマ法王になる日まで」を観て、法王ってこんなエグい経験してきた人なのか、と、あのバチカン宮殿で華麗な白い衣装に身を包んだ姿からはイメージできない人物像にびっくりしたので、ぜひ観てみたかったのですが、ほぼアーカイブ映像のドキュメンタリーのため、延々、あちこち行ってそこでどんな風に迎えられたか、の様子を見守る感じであるのだけれど、あちこち、南米やらアフリカやら東南アジアやら中東やら、貧困や災害や紛争で苦悩する多くの人たちの前でのスピーチ、およそ常識的で特色あるような内容ではないけれど、たしかにそうとうなずかされる真実を語ろうとする姿はやはり貴く映る、グローバル化で泣くことを我々は忘れてしまった、金のために兵器はつくられる、それでも希望は奪われない。
 あちこちの惨状を見せつけられて、言葉や信念の無力さを思い知らされる、それでも。


 旅するローマ教皇 公式ホームページ

 シネプラザサントムーンにて2023年11月  


2023年12月18日

6月0日 アイヒマンが処刑された日

 アイヒマンといえば、「ハンナ・アーレント」で重要な役割であったりしましたよねその裁判の様子、裁判にかけられてその記録映像が残されているということもあって、よく登場する人物のような気がするけれど、判決から処刑されるまでどんなだったか、というのが彼に注目するのではなく周囲の関係者を描くことで語られる、それがいかに誰にとっても大事件であったかイスラエルの人びとそれぞれが、どんな思いでその出来事に対処していったのか、史実というわけではないだろうけれど、緊張のような歓喜のような悲しみのような虚しさのような空気、あまりに悲劇的で陰惨な出来事の意趣返しとしては、なんとなく寂しい、けれど、どんなに世界的な大事件であろうとも、じつは、名前を持つひとりひとりの、心のうちにいつまでも残る深い傷の積み重なり。
 登場する人たちの、立場から眺める風景が多層的に描かれて、世界のなりたちの重さに触れられたり。
 それにしても、イスラエル。


 6月0日 アイヒマンが処刑された日 公式ホームページ

 シネプラザサントムーンにて2023年11月  


2023年12月16日

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

 ディカプリオ、デ・ニーロ、スコセッシ、となるとむしろ敬遠したくもなる大御所揃いですが、なんかやっぱり予告編が面白そうだったので、で、面白かったですね、なんでしょうね、ともかくテンポがよいというのかスコセッシ監督の魅力だと思うのだけれど、多くを語らずとも物語の背景とか人物像とか、気持ちの流れとか交歓とかがよくわかる、わりに複雑な関係性とか感じられるのですが、ディカプリオの、言ってることとやってることと思っていることのチグハグさが、ああそうだよね人間てそんな感じだったりするよね、と納得できて悲しかったり怒りを覚えたりする。
 いやいや石油がらみはなんとも恐ろしく陰惨でけれどどうにも惹かれる物語になったりしますねゼア・ウィル・ビー・ブラッドしかり。
 ディカプリオは当初、違う役を想定されていたけれど、当人がこの役を希望したとのことですが、なんかそうなってくるともう、スマートなヒーローのイメージからどんどん遠のいていく感じでしょうかね。


 キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 公式ホームページ

 シネプラザサントムーンにて2023年10月  


2023年12月13日

バーナデット ママは行方不明

 かっこいいですねケイト・ブランシェット、予告編ではとんでもないヒステリーおばさんなのかと思っていたら、知的で健気な奥様、母親でした、のに、常に心に余裕がなくキレ気味でなんでもスマホの秘書みたいなのに面倒ごとをお願い、じつは以前は高名な建築家だったらしいのになぜかその片鱗さえ見られない暮らしぶり、家庭に入るということはこんな悲惨なことなのか、とでも思われそうなエピソードが延々と、と、ひょんなきっかけでそこから脱出することになるのだけれど。
 南極が観られるということで楽しみにしていた鑑賞でしたが、よかったです、いろいろの施設やシステムも、ちょっと見ることができて、世界にはこんな場所もあるのだなあと、知ることができるのは、楽しいですね、バーナデットが息をふきかえすのも当然、視界が広がるというのは何よりの癒しかも知れないですね。
 そういえば以前なにかの番組で、南極基地の建築物がいろいろ紹介されてたんですが、面白いですね、そういうの考えるのって、なんか確かにわくわくしそう。


 バーナデット ママは行方不明 公式ホームページ

 シネプラザサントムーンにて2023年10月  


2023年12月12日

エリザベート 1878

 19世紀のヨーロッパの歴史のお勉強がすこしできるかな、という期待もあっての鑑賞だったのだけれど、たしかに史実をベースにはしているのでしょうけれど、けっこう自由にいささか突飛にアレンジされてというか、むしろ、主張があらかじめ用意されてその道具として選ばれた人物像だったのでは、と想像されたり、なかなかの爽快感であったけれど。
 いやじっさい、王家に生まれついたり嫁いできたりは、いろいろの事情で束縛されての人生を享受するしかなく、個人の嗜好や主張などほぼ顧られない、既成概念に屈伏せざるを得ず、そうでなければ反逆とみなされ大騒動、のやりきれなさ、人権とは最も遠いところにいる存在、ということを考えさせられながらの物語との交歓であったり、ここでも今でも続いている論点でもありそうな、要は現代のお話でした。
 どんな身分でも家族とは心の通い合いの難しさは、夫、息子、娘、それぞれの価値観とのぶつかり合いはごく普通の家のようでも、王家独特の重大さがありそうでも。娘とのす違いがなんとも。


 エリザベート 1878

 シネプラザサントムーンにて2023年10月  


2023年12月04日

アステロイド・シティ

 おおよそのパターンは想像できてもつい観てみようという気になってしまうウェス・アンダーソン、パラパラ魅惑的な大人のおとぎ話をめくる楽しみはだってやっぱり期待を裏切らないでくれるわけで、ひとりひとりの背景も要領よく丁寧に描かれてそして終盤のいくらか夢心地になれるエピソード、おもわず笑ってしまう、ありえない人たちのありえない物語のようでけれどなぜかどこか本物っぽいような、世界って意外に面白いものなのかもしれないという希望のような。


 アステロイド・シティ 公式ホームページ

 シネプラザサントムーンにて2023年9月  


2023年12月02日

ロスト・キング 500年越しの運命

 この、思い込み、執念の強烈さといったら、ちょっとね思いつくとか気づくとかはあるでしょう誰にでももしかしたら、けれど人生のすべてを賭けてその検証のために行動するていうのは、もう、奇人とか変人とか誰にも理解されず邪険に扱われても物ともせず、の信念、まさにもう、神の啓示を受けたとしか、そしてこういう世間の既成概念など打ちこわすエキセントリック人間がときおり現れてくれるおかげで、社会は少しずつ正しさに近づいてくれている感触、ささやかな希望の光。
 権威主義世界の住人の醜さいじましさよ。
 家族の反応が癒しというか救いというか、どこまで事実なのか知れないけれど。


 ロスト・キング 500年越しの運命 公式ホームページ

 シネプラザサントムーンにて2023年9月  


2023年11月11日

青いカフタンの仕立て屋

 モロッコの文化に興味があったりもしての鑑賞でしたがカフタン、女性がフォーマルの場で身につける伝統衣装なんですね、ここぞ、という場面での勝負服というような、だから注文する側も拵える側も妥協なく一所懸命、の豪華絢爛な美しさ、時間を要する手仕事には繊細な感性と注意深さが必要で、携わる仕立て屋の主人の心根がそのまま現れてくるわけだけれど、弟子として雇われた職人にもそれはそのまま伝えられ、の緊張感が工房の空気を静かに張りつめさせ、そして店番の仕立て屋の妻はしばしば苛立ち、の物語。
 三人の関係性の物語、として何となく予想していた流れではなかったのが、あ、そういうお話なの、という感じでしたが、伝統的な文化を背景に、今風のテーマであってというのか社会の抑圧への静かで切ない抵抗というのか、ともかく、真剣に、誰かを、愛する、守ろうとする、気持ちの、尊さこそが、普遍的な人間の使命ででもあるかのような。
 誰がなんと言おうと、関係ない、思考停止社会の無責任な言葉なんか。

 奥さんの女優さん、「灼熱の魂」の印象がものすごく、なんかすごい存在感。


 シネプラザサントムーンにて2023年7月

 青いカフタンの仕立て屋 公式ホームページ  


2023年08月06日

アダマン号に乗って

 美しいんですよね船が、外観も内装も、あの、いくつもの木製の窓の扉がギシギシ開けられる瞬間とか、それだけで喜びがどこかうちから溢れてくるような。
 セーヌ川の岸に横付けされた可愛らしい船に毎朝集ってくるのは、さまざまな背景を持った人々、なのだけれど、どの人がケアされている側で、どの人がケアする側なのか、判然とわからないのが、ああこういう世界観だってもちろんありなのだよな、と不意打ち、普段わたしたちが置かれている社会がいかに管理されたものであるのか管理されてしかるべきと思い込まされているのかが、鮮烈に、何が正常で何が異常なのかの線引き、レッテル貼りこそが、高度な思考と勘違いされていることへの怒りが。
 他者からの抑圧への対応の在り方は多分ものすごく難しくて、自分を保つために破裂してしまいそうになったりはなんか感覚としてわかるような気にもなる、から、そんな全然おかしくなんかない苦しんでる本人が苦しまないで済む方法さえ見つけられればそれで。
 豊かな社会とはこの船の世界なのでは、これが社会全体だったら生きてゆくのもそんなに嫌ではないのに。

 パンフ購入。「制度精神療法」「病院という場が病気にならないようにしなければならない」。
 思うに妥協のない真剣さが真実求められる。この国ではもはや無理だろうと絶望。とはいえロングライドが共同製作とのこと。


 シネプラザサントムーンにて2023年6月

 アダマン号に乗って 公式ホームページ  


2023年06月22日

TAR/ター

 ケイト・ブランシェットが天才的女性指揮者を怪演、となれば観ずにはいられないのだけれどやっぱりすごいですね極端な話ストーリーとかなくても観る価値ありそうに思えるぐらいの圧倒的存在感、ひとりの人間の人生との関わり方、内面に潜む感情、思考、感覚、全てがまざまざとあけすけに表現されて、美しさと恐ろしさの極地がすぐそこに。
 159分、長いですね、そのわりに説明的な描写や台詞はいっさいなく、冒頭の、リディア・ターなる主人公がいったいどういう人物なのかを表面的な経歴を長々語るインタビュアーが与えてくれる情報をもとに物語を追う形になるのだけれど、彼女がその地位にふさわしく思いのままに周りを従えさせるさまが、やや傲慢気味に描かれ、けれどどこかチャーミングでもあって、人知れず臆病そうであったり小心者のようであったり。
 権威をまとわないと存在できず互いの思惑が錯綜する世界で戦いながらの唯一こころが安らぐのが娘とのひとときでありそうなのは、無垢なものを求める気持ちなのか、彼女自身にも少女の気持ちがきっとどこかにひっそり残ってそうだし。
 彼女がたどるストーリーは表面的にはいま流行りの事件の一つでありそうで、けれど、あながち悲劇ではないんでは、という捉え方、救われたんではないんだろうかむしろ、あんなところで余計なことに頭つかって生きるの、大して面白くなさそうだしな、と思うんですけど個人的に。
 暗喩とか皮肉とかフラグとかあちこち散らばってそうな気配ですね、ぜんぶ拾えてないと思うけれど、ああ、ああ、と心の中で。


 シネプラザサントムーン にて2023年5月

 TAR/ター 公式ホームページ