2012年09月25日

最強のふたり

 夜中に疾走するふたり組は、すっかり息のあったコンビぶりを発揮して、間一髪の逮捕劇もしなやかに逃れ、どこまでも、まさに世界の果てまででも走り抜けてゆきそうないきおい。ともあれ、その掛け合いのテンポのよさに、こちらもなんだかウキウキ、安心して、くつろいでしまう。
 とはいえ、ギリギリのところでの綱渡りかも、首から下の感覚までもが奪われた障がいについて、けっこうキツい冗談を言い放ったり、それに対して自虐的な笑いを惜しまなかったり、たしかに、そこには、ユーモアのセンスを共有できている、強い結びつきがあるのかもしれないけれど、待てよ? 両者の目の輝きには、けっして一歩も退くものかという、負けず嫌いの色がちらついてはいないだろうか、傷ついてしまったら負けになる、からだの不自由な、あるいは、不遇な育ちの身の上を、嘆くところを見られたら、存在することさえ耐えられなくなる。
 あぶなっかしい感情の揺らぎのうえで、かろうじて踏ん張っているように見えてしまう、彼以外のだれもが、われを忘れて弾けて踊り狂い、自然に漏れてしまう満面の笑みを、あたかも世界中に誇示しているのではないかという場面での、釘づけになりながらも、その瞳の奥に宿る激しい煌めきは、どうしたって嫉妬の炎のように見えてしまい、けれど手加減はけっして望まない、相手もわかっているのか容赦ないいたぶりはどんどんエスカレート、でもそれこそが、慰めなのかもしれない、安易ないたわりを拒絶する、やせ我慢のお約束こそが。要は刺激が、いちばんのクスリ、唯一の、生の実感。だから、性懲りもなく、宙を舞ったりスピード狂に耽ったりする。
 何よりこわいのは、同情されること、みじめなきもちを呼び起こされること。不用意に誇りを傷つけられてしまうこと。
 そんな駆け引きのなかでの、奇跡的ともいえる巡り合わせ、微妙なバランスをくずすことなく最初は興味本位だったかもしれない相手への関心が、尊敬と信頼とに変わってゆく物語が、たくさんの笑いを交えながら描かれている感動作、なのかもしれません、スクリーン眺めているあいだは、たしかにそんな快さがあったような気もするのですが、でも、それでいいの?
 というのは、これも実話がもとになっている『海を飛ぶ夢』の悲壮な世界観を思い返さずにはいられないからで、同じ障がい者で、たぶん誇り高さも負けてはいないハビエル・バルデムが人生の愉楽を享受しえなかったのと比較すれば、どうしたってそこには貧富の差、つまりは、気分しだいで本当に空を飛ぶこともできてしまう圧倒的な資力があってこそ「最強のふたり」になりえたのでは、ということに、激しくうちのめされる現実があって、騙されたような苦味。奇跡にも、やはりお金が有効らしく……。

 TOHOシネマズシャンテにて、2012年9月、公開初日の興奮につつまれて。

 最強のふたり 公式ホームページ


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Posted by 中島遥香 at 00:23 │◆映画レビュー2012年映画館でヨーロッパ映画

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